ウイスキーの「何年物」について間違った認識をしてしまってはいませんか?
実は「山崎12年」や「マッカラン12年」などは、12年間熟成させたウイスキーではないのです。
ではウイスキーの年数表記にはどういった意味が込められているのでしょうか。
今回はウイスキーの年数表記について解説していこうと思います。
ウイスキーの「年数表記」について
冒頭でも書いたように、ウイスキーでは「12年」などの年数表記は「12年物=12年熟成された」という意味ではありません。
そのウイスキーに使われた原酒の中で、最も短い貯蔵熟成年数が示されています。
例えば……
3年、10年、15年、45年の原酒をブレンドしたら、熟成年数は「3年」の表記です。
つまり、「山崎12年」は山崎蒸留所のモルト原酒を12年熟成させたらできるわけではありません。
「山崎12年の味」を作るためには、もっと長い熟成年数の原酒が必要になるわけです。
だからウイスキーは急に売れるようになると、原酒不足で生産できなくなっちゃうんですよね……。
スコットランド、アイルランドの年数表記
もともとスコットランドやアイルランドのウイスキーの法律で、年数表記のルールが決められました。
他の国では、そのルールに沿ってラベルに熟成年数が記載されています。
スコットランドやアイルランドでは法的には3年熟成させればウイスキーとなるため、3年間熟成された原酒がブレンドに使用されることもあるでしょう。
ところが、「3年」と表記されたウイスキーを見たら、先入観から「若くておいしくなさそう」という意見を持ってしまうこともあると思います。
そのためにあえて年数表記を書かない「ノンエイジ」のウイスキーがあるのです。
アメリカンウイスキーの年数表記
バーボンを含むアメリカンウイスキーも、スコッチやアイリッシュと同じく最低熟成年数表記です。
ところが、アメリカンウイスキーの「熟成期間」に関して少し複雑。
アメリカンウイスキーには連邦アルコール法で「熟成が義務」と記載されています(コーンウイスキーは除く)。
ところが、「熟成期間」の記載はありません。
極端な話、1日でも内側を焦がしたオーク製の新樽に詰めたら「バーボン」などと名乗ることができます。
ただしその場合は「1day」などと記載しないといけません。
アメリカンウイスキーでは「年数表記ナシ(ノンエイジ)」で販売するためには、4年以上熟成させる必要があります。
荒々しいウイスキーと熟成されたまろやかなウイスキーを4年熟成を基準に分けるためです。
4年という基準は、ウイスキー造りの盛んなケンタッキー州の気候による熟成の仕方に関係しています。
ケンタッキー州は寒暖差が激しく、日中はスコットランドやアイルランドより断然暑いです。
空気も乾燥しているので、熟成がダイナミックに進みます。
また新樽の使用が義務となっているため、熟成のピークはスコッチより断然に早いです。
ウイスキーを買おうと思った時、
「12年もの」のウイスキー(スコッチやアイリッシュ)と「8年もの」のウイスキー(アメリカン)が同じ値段で並んでいたら、どちらが熟成感を感じられると思いますか?
当然「12年もの」の方だと思うでしょう。
ところが、8年物のバーボンでもスコッチの12年以上の熟成感を感じることは多々あります。
熟成年数表記による先入観をなくすために、4年以上のアメリカンウイスキーは年数表記をなくしてもよいとされているのです。
ちなみに「ストレートバーボン」、「ストレートライ」と記載されているものがありますが、これは2年以上の熟成されたものにつけられます。
日本の年数表記
5大ウイスキーで、年数表記について法的に何も守られていないのが日本のウイスキーです。
日本のウイスキーには「蒸留上限度数」以外の規制がありません。
つまり、熟成年数の表記は製造元に一任されています。
日本の多くの銘柄の年数表記は、スコッチと同じ「使用している原酒の中で最も若い熟成年数」です。
ところが、一部製造元では明らかにおかしな年数表記となっていることもあります。
例えば、10年前には蒸留所がなかったはずの所から「10年物のシングルモルト」がリリースされることなどがあります。
日本は、外国産のウイスキー原酒のみでボトリングしたとしても、法的には「ジャパニーズウイスキー」と謳うことはできました。
なので、10年以上熟成させたスコッチなどをシングルモルトとして、あたかもその蒸留所が作ったように見せることは可能です。
もちろん法の網をかいくぐったようなウイスキーはごく一部であり、各社こだわりを持ってウイスキーを作っています。
日本はウイスキーを守る法がないため、他国では許されることのないウイスキーが存在してしまっているのです。
最近「日本洋酒酒造組合」がジャパニーズウイスキーの自主基準を決めました。
日本洋酒酒造組合:ウイスキーにおけるジャパニーズウイスキーの表示に関する基準
法としての決まりではないですが、自主基準が施行されたことにより簡単に「ジャパニーズウイスキー」と名乗れなくなりました。
日本は、世界に誇れる素晴らしいウイスキーを作っていますが、その製造工程が無法地帯ではいつか衰退してしまうでしょう。
このような基準ができたことは、日本ウイスキー100年の歴史の大きな分岐点となると思います。
ヴィンテージ表記のウイスキーもある
ウイスキーは今回解説したように「使われた原酒の中で最も若い熟成期間」を年数表記することが多いです。
ところが、中にはワインのようにヴィンテージ表記をするボトルもあります。
ウイスキーの場合は……
- 蒸留した年
- 瓶詰した年
などが記載されています。
樽ごとの違いを楽しむ「シングルカスク」などでヴィンテージ表記が用いられていて、ヴィンテージのみの場合もあれば、年数表記もしているボトルもあります。
特にボトラーズウイスキーやオフィシャルの限定ボトルなどにヴィンテージ表記が多いです。
まとめ
今回は、ウイスキーのラベルに記載されている年数表記について解説いていきました。
ウイスキーの年数表記は、例えば「12年」なら「12年間熟成させた」という意味ではなく、「使われた原酒の中で最も若い熟成期間が12年」という意味です。
基本的にウイスキーはシングルモルトでも「ブレンド」が行われます。
ウイスキーは、ワインのように樽出しそのままボトリングされる銘柄の方が圧倒的に少ないので、このような表記のルールとなったのでしょう。
スコットランドやアイルランド、アメリカでは年数表記について厳密に法で管理されています。
現在日本は年数表記に関する法はありませんが、多くの蒸留所はスコットランドやアイルランド同様に「最も若い熟成期間」を表記しています。
中には、樽出しそのままの「シングルカスク」というウイスキーもあるので、その場合はヴィンテージ表記が採用されていることがあります。
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