家庭でも手軽に作れる水割りですが、実はプロのバーテンダーの中では難しいカクテルだといわれています。
同じウイスキーでも技術や作り方の差が出てしまうことがそう言われる理由です。
中でも比較的安定して美味しく作れる方法が「前割」。
今回はウイスキーの前割についても詳しくまとめていきます。
水割りがなぜ難しいのか?
水割りは氷を入れたグラスにウイスキーを入れ水で割った飲み方です。
1970年代日本のウイスキーメーカーが和食に合わせたウイスキーの楽しみ方としてプロモートしたのがきっかけと言われています。
日本人になじみのないピート香を抑えつつ、口当たりをマイルドにした水割りによりウイスキーはV字回復することとなりました。
馴染みのある焼酎水割りに近い楽しみ方がよかったのかも。
日本だとお酒は食中酒が一般的だもんね。
ウイスキーの水割りは、繊細な味わいとマイルドな口当たりが特長。
そのため、少しの差がわかりやすく現れてしまう特性があります。
もし違いを味わってみたい方は、オーセンティックバーでプロが作った水割りを味わってみてください。
普段飲んでいる水割りと同じ銘柄のはずなのに、繊細さとマイルドさの違いがわかるかと思います。
僕が両親や姉、義兄に水割りを提供した際、みな味わいの違いに驚いていました。
父も義兄も普通のサラリーマンです。
普段からウイスキーを飲みなれているわけではありません。
うまい水割りは、香り高く飲みごたえがありつつも、繊細でマイルドなアルコール感となります。
水割りの理論をわかる範囲で解説
水で割ると香りがよくなる!?
ウイスキーは99%が水とエタノールです。
ウイスキーの香味成分は、ほとんどがエタノールに溶け込んでいることが多いです。
水溶性の香味成分って飛んでいきやすいからね。
ウイスキーを水で割ることで香味成分が液面に浮いてくることで、香りが感じやすくなると言われています。
アルコール度数が高いほど、香りがたちやすくなります。
プロの水割りはスゴイ!!
ウイスキーフロート(水の上にゆっくりウイスキーを注ぐ飲み方)という飲み方があるように、ウイスキーと水は意外と混ざりにくいです。
水割りも一見混ざっているように見えて、うまく混ざっていないことがあります。
反対に必要以上に混ぜると氷が溶けてしまい、水っぽい水割りの完成です。
水とウイスキーを混ぜたうえで、香り立ちよく氷の溶け具合までコントロールとなると、プロのテクニックが必須でしょう。
コントロールの難しい水割りですが、あらかじめ水とウイスキーを馴染ませておくことでよく冷えた美味しい水割りを作ることができます。
それが前割です。
「前割」とは?
焼酎には昔から『前割』という楽しみ方がありました。
前もって焼酎と水を馴染ませておくと、お湯割りも水割りも格段においしくなると言われています。
今回紹介する方法は、それをウイスキーに置き換えた方法です。
実はもともとほとんどのウイスキー銘柄はあらかじめ水となじませる前割が行われていると言えます。
原酒をブレンド後、アルコール度数を40%程度に調節しステンレスタンクなどで馴染ませてからボトリングされているのです。
つまり、前割りはそれをさらに低いアルコール度数で行うだけと言えるでしょう。
水割りに最適な水は何か?(まず理論)
その前に水割りに最適な水について考察します。
実は、ウイスキーの仕込み水は、軟水が多いです。
そしてウイスキーは、加水調節してからボトリングされることが多いですが、その水も蒸留水(軟水)がほとんどです。
つまり軟水が一番合いやすいのではないかと思います。
硬度だけで分類するとしたら、
二番目に仕込み水として多いのは中硬水です。
中硬水が次に合いやすく、硬水が一番合いにくいのではないかと仮説を立てました。
デュワーズの前割を主軸に最適な水を探す実験
今回用意したのは……
<ウイスキー>
デュワーズホワイトラベル
フルーティでバランスのいいブレンデッドスコッチです。
- ライトで飲みやすい
- 2000円台の12年がコスパが良すぎて、ややかすんでしまう
<ミネラルウォーター>
ファミマ 津南(硬度17mg/L:軟水)
南アルプスの天然水(硬度30mg/L:軟水)
ボルヴィック(硬度60mg/L:軟水)
ファミマ 霧島(硬度150mg/L:中硬水)
ソラン・デ・カプラス(硬度260mg/L:硬水)
エヴィアン(硬度304mg/L:硬水)
以上の6点です。
ウイスキーと水は1:3の比率で割ります。
水割りの黄金比率は1:2~2.5といわれていますが、これは氷の溶ける分も考えてのもの。
今回は水とウイスキーの混ざった物を冷蔵庫で寝かせることにしました。
氷の溶ける分は少いだろうと考え、1:3の比率にしています。
テイスターは僕と妻で行いました。
水単体の印象と 前割一日目の結果
詳しい結果は表にまとめました。
名前 | 硬度 | 水だけの印象 | 前割1日目 |
---|---|---|---|
津南 | 17 | すっきりしている。 どこか爽やかさを感じるぐらい滑らか。 | すっきりしすぎている。 香りがぼやけた感じ。香りが弱いからアルコール感が少し悪目立ちしてる。 |
南アルプスの 天然水 | 30 | クセがない。 かなりクリアですっきり。 雑味をほとんど感じない。 | オレンジ、やミカンのような柑橘系の香りとすっきりした味わい。アルコールの厚みがありつつ、水と混ざり合っている。 |
ボルヴィック | 60 | すっきりはしているけど、ほんと若干の酸味?硬さや厚みはあまり感じないが、少しだけ飲みごたえがあるような気がする。 | やや渋み。少し硬い感じはする。苦みと厚みがやや強め。 |
霧島 | 150 | まとわりつく感じは少ないが、硬さを感じる。 ややのど越しかある。どこかまろやか。 | オレンジとリンゴのフルーティさに甘味と渋みのバランスがちょうどいい。お酒の満足感が残りつつ、口当たりがいい。 |
ソラン デ カブラス | 260 | 硬さと酸味、えぐみがある。厚みのある味わい。まとわりつくまろやかさもある。 | 硬水の硬い感じがかなり残ってる。厚みとまとわりつく感じは強いからかお酒を飲んでいる飲みごたえがある。 |
エヴィアン | 304 | まとわりつく。口に入れたときにすぐに硬さを感じる。舌に残るまろやかさがある。 | 酸味が強く、最初の口当たりは微妙。そして後味が苦い。ただ中盤の香りだけはいい。 |
1日目では、軟水でもややミネラル分が含まれているものから中硬水ぐらいが美味しいという印象でした。
つまりクリアすぎると抜けたような味わいになり、硬度が高すぎると、ウイスキーの味わいを邪魔するようです。
「前割」の賞味期限
では前割はいったいいつまで香りや味わいを保つことができるでしょうか。
そこで2日目と3日目も飲み比べてみました。
名前 | 硬度 | 2日目 | 3日目 |
---|---|---|---|
津南 | 17 | 一日目より香りが開いている感じがする。 すごいまろやかで飲みやすい。 | 昨日よりは香りが飛んでいる。 まろやかさは健在。 多分ここが限界。 |
南アルプスの天然水 | 30 | すっきりしている。 香りはとび気味。 まろやかすぎ、飲みごたえが足りない。 | まろやかなアルコールと水。 ウイスキーの香りは楽しめない。 |
ボルヴィック | 60 | そこまで大きくは変化していない。苦め。 | 香りが飛んだ。 味わいもぼやけて水っぽい。 |
霧島 | 150 | ぼやけた。香りが飛んで苦みが出てきた。 | かなりぼやけた。香りがない。 |
ソラン デ カブラス | 260 | 少しぼやけて香りが飛んでる感じ。厚みの弱くなっている。苦みだけそのまま残っている。 | 麦茶のような味わい。 アルコール感は少なく、悪くはないかも。2日目と香りがそん色ない |
エヴィアン | 304 | 一日目より香りは残ったまままろやかさが出て、口当たりもよくなっている。 | やや香りが残っている。味わいも強く残っていてまだ水割りとして保っている。 |
2日目
なんと一番硬度の低い軟水である『津南』と一番硬度の高い『エヴィアン』が美味しく感じました。
正直仮説は崩れましたね。。
『もしかしたら「水分子の状態」ようは溶けやすい状態だったのではないか。』という意見を頂きました。。
やっぱり水割りは奥が深いです。。
3日目
今回は分かりやすい違いが出ました。
軟水、中硬水は味わい香りが飛んでいます。
対して、硬水のほうが変化が少なく、香りがそこまで飛んでいないです。
逆に、硬水の滑らかな舌触りとウイスキーの厚みがうまくマッチして口当たりがよくなっています。
前割で日持ちさせるなら硬水がいいのかもしれないです。
この時点では前割は保存がきかないと思っていました……
「前割り焼酎」を参考に、1週間熟成!!
ここからは追加実験です。
正直、ウイスキーの前割はSNS伝いで知った情報だったので、前割り焼酎についてくわしく知りませんでした。
そこで今回は前割り焼酎に倣ってウイスキーの前割りを行うことにしました。
「前割り焼酎」とは??
その名の通り、事前に水と焼酎を割ったもの。
熟成期間は3日~1週間程度です!
1晩でもかなり変化はあるみたいですが、寝かせることで口当たりが柔らかく仕上がります。
「前割り焼酎」ポイントは……
- 冷蔵庫保管
- 熟成3~7日
- 水は軟水
- 水:焼酎は4:6
だそうです。
ただし、注意が必要!!
1週間、寝かせてみた
実験の準備は以前と同じ。
今回は香りが逃げないようラップでぐるぐる巻きにしました。
前割実験再び!
今回は一週間寝かしてから味を見ます。
前回一日ごとに飲んだため香りが抜けた説があるので、今回は焼酎の前割に習って少し熟成させることにします。 pic.twitter.com/woqmbRQCiY
— yaffee@ブロガー×ウイスキー好きの料理人 (@TW0GPYU3yMS7N3o) June 18, 2020
ただ今回用意した水は前回と同じ「霧島」、「南アルプスの天然水」、Twitterのフォロワーさんからいただきました「日田天領水」、「阿蘇の天然水」です。
1週間後
一週間経ちました!!!今からテイスティングしていきます!^_^ https://t.co/zYNjkVBhIS
— yaffee@ブロガー×ウイスキー好きの料理人 (@TW0GPYU3yMS7N3o) June 25, 2020
続いて霧島と同じく@dryeyeaitata さんよりいただきました日田天領水でテイスティング!!
霧島はなんか木香と重厚感ある。
そして日田天領水はアフターフレーバーがめっちゃいい!!度数だけ落としたデュワーズ!!ラップでグルグル巻きにしてやったけどパラフィルムあったらもっとよかったかも https://t.co/wgV8KE8z8M pic.twitter.com/y0AijXlcQe
— yaffee@ブロガー×ウイスキー好きの料理人 (@TW0GPYU3yMS7N3o) June 25, 2020
とりあえ@dryeyeaitata から頂きました阿蘇の天然水と南アルプスの天然水で試してみました!!
ん!?
Σ(‘◉⌓◉’)一週間前割りしたウイスキーを寝かせた方が圧倒的に香り高くて味わいまろやか!!
特に注ぎたて!!南アルプスの方がまろやかで阿蘇はシャープ https://t.co/1GORDFsQTY pic.twitter.com/C1cmPSesuW
— yaffee@ブロガー×ウイスキー好きの料理人 (@TW0GPYU3yMS7N3o) June 25, 2020
結果はこのような感じでした。
1週間寝かせたほうが段違いにおいしいです。
特に、開けた時の香りはウイスキーストレートより爆発的に広がります。
しかし焼酎より圧倒的に揮発成分が多いためでしょうか。
一度開けてしまうと香りが抜けやすく、ぼやけやすいのはウイスキーの前割の欠点かなと思います。
ウイスキー前割りを行うのであれば、4~1週間程度全く開けないで熟成させるのが一番オススメです。
【ウイスキー『前割』の利点】
- 美味しい水割りを手軽に作ることができる。
- ウイスキーと水の相性を試しやすい。
- 作っておけば、水割りがすぐに楽しめる。
【ウイスキー『前割』の欠点】
- 味わいや香りが保てる賞味期限がある。
- 冷蔵庫の場所をとる。(ご家族に要相談してください。)
最後に……
最後までお読みいただきありがとうございます。
今回のお話いかがだったでしょうか??
お手軽に美味しい水割り楽しめる方法『前割』です。
ただそれだけではなく、様々な実験ができるのもこの飲み方の魅力かなと思います。
ぜひ一度ご家庭でも試してみてください!
もし研究されたときはぜひコメントにて結果を教えて頂けるとありがたいです。
お待ちしております!!
コメント
コメント一覧 (1件)
ほんと、水割りは難しいです(*_*)
友達が家に来て、とっておきのシーバスと水を適当にグラスに入れて、ステアもせずにグビグビ飲んでた時はイラッとしましたね(^^;;
まあうまいうまいと言っていたので、お、おぅとなりました(^^;;