今では世界中で愛飲されているウイスキーですが、「連続式蒸留機」が登場するまでコアなファンしかいないお酒でした。
連続式蒸留機の登場がウイスキーの歴史を大きく変えることとなったのです。
なぜ連続式蒸留機の登場がウイスキーの歴史を変えることとなったきっかけとなったのでしょうか?
連続式蒸留機の特徴について解説しつつ、そのナゾを紐解いていこうと思います。
連続式蒸留機とは?
連続式蒸留機とは、連続的に蒸留を行うことができる近代的な蒸留装置です。
高い塔の中に十数~数十層もの棚があり、その一つ一つで蒸留ができるようになっています。
連続式蒸留機はアルコール純度の高いピュアな蒸留酒を作ることが可能で、雑味の少ない味わいが特徴です。
1831年にイーニアス・コフィが開発したコフィ式スチルが実用化され、そこからウイスキー造りだけでなく蒸留酒づくりの中心となっていきました。
連続式蒸留機によって変わったウイスキーの歴史
連続式蒸留機が開発されるきっかけは税金対策だといわれています。
当時のイギリスではスチルの容量に応じて変動する税が課せられていました。
スチルの容量を大きくすることなく、効率よくウイスキーを作るためにはどうしたらよいか……
その結果誕生したのが連続式蒸留機だそうです。
1826年、スコットランド人のロバート・スタインによって連続式蒸留機が発明されます。
そして1831年、アイルランドの元収税官のイーニアス・コフィがロバート・スタインのスチルを改良し、実用化。
現在使われている連続式蒸留機の原型が誕生しました。
その際、コフィは特許(パテント)を取得したため、連続式蒸留機は別名”パテントスチル”と呼ばれています。
ちなみに、ニッカカフェモルト・カフェグレーンの「カフェ」はコフィ式蒸留機のことです。コフィ=カフェとなったみたいですね。
アイルランドのウイスキー造りを守るためにパテントスチルを実用化させましたが、地元アイルランドの蒸留家たちには見向きもされませんでした。
この連続式蒸留機に目をつけたのが、スコットランド・ローランドのグレーンウイスキー蒸留所です。
安価で効率よくニュートラルなスピリッツが作りたかったグレーンウイスキー蒸留所。
コフィの連続式蒸留機はそのすべてをかなえることができる、夢のような機械だったことでしょう。
当時スコッチウイスキーはモルトウイスキーが主流で、個性が「うるさい」お酒(ラウドスピリッツ)としてスコットランド以外では不人気でした。
連続式蒸留機によって個性の少ないグレーンウイスキ―(サイレントスピリッツ)ができ、モルトとブレンドしたスコッチブレンデッドウイスキーが誕生しました。
アイリッシュウイスキーよりも飲みやすく、ほどよい個性のあるバランスのいいブレンデッドウイスキーはたちまち人気となっていきます。
ブレンデッドウイスキーの誕生までは、飲みやすいアイリッシュウイスキーの方が人気があったそうです。
さらに……
- フィロキセラにより、ブランデーの生産ができなくなったこと
- アメリカの禁酒法により偽物のアイリッシュウイスキーが横行、アイリッシュウイスキーが衰退したこと
- スコットランドのウイスキー論争により、グレーンウイスキ―とブレンデッドウイスキーが認められたこと
などが重なり、一気にブレンデッドウイスキーが世界的な蒸留酒として親しまれるようになりました。
連続式蒸留機の特徴
当初のコフィ式スチルは粗留塔と精留塔の2塔式でした。
粗留塔で粗削りのように大枠の蒸留をして、精留塔で味わいの形を整えていきます。
今の連続式蒸留機も原理としては同じ構造をとっていますが、何塔もの蒸留塔からなる複雑なシステムに進化したことでよりニュートラルなスピリッツが作れるようになっています。
連続式蒸留機は意外と多彩な原酒を作り分けることができる設備だそうです。
数年前まで連続式蒸留機の内側は銅製で作られていました。
連続式蒸留機もポットスチルと同じく銅の効果が必要だったからです。
ただ部品の交換などメンテナンスにコストがかかってしまいます。
最新の連続式蒸留機は、銅製のネットを各段に仕込むだけ変わっています。
格段にメンテナンスが楽になり、オフフレーバーの除去もできるそうです。
また、蒸留機自体はステンレス製にすることができるので、「減圧蒸留」が可能になります。
グレーンウイスキーはよりすっきりとした味わいとなって、大きく改善されたようです。
焼酎やウォッカなどホワイトスピリッツの味を劇的においしくした「減圧蒸留」ですが、実はウイスキーでも行われているみたいですね!
最新のアロスパス式
現在よく使われている連続式蒸留機はアロスパス式と呼ばれるものを各社独自改良したものです。
知多蒸留所はアロスパス式蒸留機を使用しています。
アロスパス式連続蒸留機の大きなポイントは抽出塔があることです。
今までフーゼル油(フーゼルアルコール)という成分は分離することができませんでした。
そこで誕生したのが抽出塔のあるアロスパス式蒸留機です。
フーゼル油(フーゼルアルコール)には水と分かれる性質(疎水性)があります。
一度抽出塔で加水してフーゼル油を分離させて蒸留させるという方法でピュアなエタノールに近づけることが可能。
アロスパス式はほかにも濃縮塔、分離塔など様々な役割の蒸留塔からなる蒸留装置で、多彩な原酒を作ることができます。
コフィ式スチル
コフィ式スチルは古典的な蒸留機で現在は使われていない……なんてこともありません。
コフィ式スチルにしか出せない味、コフィ式スチルだから残る個性は注目されています。
コフィ式蒸留機で作られた代表銘柄でいえば「ニッカ カフェモルト」と「ニッカ カフェグレーン」です!!
プリンのカラメルのような香りとコクは樽だけでなく、スチルからくるものでもあるそうです。
ニッカ以外にスコットランドならロッホローモンドのシングルグレーンがコフィ式スチルを使っているようです。
原料の個性が違うので全然味わいは違いますが、ぜひ試してみてください!
ビアスチルとダブラー
ビアスチルとダブラーは、バーボンウイスキーなどアメリカンウイスキーの蒸留で使われる連続式蒸留機です。
ビアスチルの構造はコフィ式蒸留機のアナライザー(粗留塔)に近く、銅製で円柱型の10~20の棚があるスチル。
現在、ビアスチルはケンタッキー州ルイヴィルのヴェンドーム社しか作っていません。
そして、対となるダブラーはポットスチルに似た形状となっていますが、仕組みは連続式蒸留で、グレーンウイスキーでいう「精留塔」と同じ役割です。
ビアスチルで110~120プルーフ(アルコール度数55~60%)まで高められ、ダブラーで130~140プルーフ(アルコール度数65~70%)に蒸留されます。
ダブラーは一度液化してから再び蒸留されますが、サンパーという液化せずに蒸留するスチルを使う所もあります。
サンパーを使用しているのは、ブラウンフォーマン蒸留所とバーンハイム蒸留所のみです。
まとめ
最後までお読みいただきありがとうございます。
今回の記事では、連続式蒸留機について詳しくまとめていきました。
連続式蒸留機とは、発酵もろみを入れてから連続的に蒸留することができる近代的な蒸留装置で、ニュートラルな味わいのスピリッツを作ることができます。
連続式蒸留機の誕生がウイスキーの歴史を大きく変えることとなりました。
カラムスチルを使って作られたグレーンウイスキ―は個性が少ないことが特徴。
個性的なモルトウイスキーとブレンドしたブレンデッドウイスキーが世界的に親しまれるお酒として広まっていきました。
連続式蒸留機の誕生がきっかけで、ウイスキーが世界中で愛されるお酒となったといっても過言ではないのです。
ウイスキーの歴史って面白いですよね。
それではよいウイスキーライフを
また次回もよろしくお願いします。
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