ウイスキー造りで使われるスチル(蒸留器)は、銅製であることがポイントです。
特にモルトウイスキーは、銅のポットスチルで蒸留する決まりがあります。
また、グレーンウイスキーの連続式蒸留機も必ず銅が使われています。
銅がウイスキーにもたらす影響は大きいのです。
今回は、その理由について詳しく解説していこうと思います。
なぜスチルは銅製?
ポットスチル(ウイスキーの蒸留器)は、必ず銅製で作られています。
スコットランドでは、モルトウイスキーを銅製のポットスチル以外で作ることはできません。
また、連続式蒸留機も必ず一部銅が使われています。
なぜ銅製であることがマストなのでしょうか??
その理由について解説していきます。
スチルが銅製の理由
スチルが銅製である理由は3つあります。
- オフフレーバーを削減することができる。
- 熱伝導性に優れている。
- 加工がしやすい。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
オフフレーバーの削減
スチルで銅が使われる最大の理由は、オフフレーバーの削減です。
オフフレーバーには硫黄化合物が多いのですが、銅は蒸気中の硫黄成分と反応する性質があります。
- ジメチルスルフィド(硫化メチル)……腐ったキャベツ、ザワークラフトのような香り
- ジメチルジスルフィド(二硫化メチル)……腐ったキャベツ、ザワークラフトのような香り
- 硫化水素……卵臭
- 硫黄化合物……ゴム、タイヤのような香り
これらのオフフレーバーとなる成分が、銅と反応して蒸留廃液として除去されます。
蒸気と銅が接する時間が長いと銅の触媒効果が得られやすいといわれています。。
- ポットスチルの形状が大きい
- ヘッドにふくらみがある
- ゆっくりと時間をかけて蒸留
など
蒸気を銅製のポットスチル内で滞留させると、ライトな酒質となりやすい傾向があります。
重ための酒質とするために小さいスチルやヘッドに膨らみのない蒸留器を使うところもあります。
また、グレーンウイスキーの連続式蒸留機でも一部に必ず銅が使われています。
硫黄化合物は、酵母がアルコール発酵するときにどうしても生まれてしまう成分です。
少量ならトロピカルフルーツのような香りを与えてくれますが、多いとオフフレーバーとなってしまいます。
硫黄化合物を除去できる銅は、お酒の蒸留時に必要な素材と言えるでしょう。
熱伝導に優れている
金属の中で銅は、銀に次いで2番目に熱伝導性は高いです。
「どれだけ熱が伝わりやすいか」を示した熱伝導率(W/mK)で比較してみると……
(引用:材質別に熱伝導率を比較すると見えてくる銅の「コスパ」|銅加工.com)
銀 420 銅 398 金 320 アルミニウム 236 真鍮 106 鉄 90.9 ステンレス 84
熱伝導率の高い金属を見てみると、銀>銅>金となっています。
熱伝導に優れているので、エネルギーコストが低く、温度調節もしやすいです。
調理の現場だと、温度調節がしやすいことから、製菓で銅製のナベやボウルがよく使われます。
ウイスキーの蒸留では、熱伝導性に優れた銅が重宝されるのです。
加工がしやすい
銅は、金属の中やわらかい特性があります。
叩きのばしやすいため、ポットスチルのような複雑な形に加工しやすいです。
加工性ならステンレスの方が優れていますが、ウイスキーは数百年前から作られているのに対してステンレスの歴史は100年程度です。
ウイスキーが大規模産業化した後も、まだステンレスはありませんでした。
先に紹介した触媒効果や熱伝導率の面で銅の方が優れているため、今でも銅が使われています。
連続式蒸留機は現在ステンレス製が一般的ですが、発明・実用化されたときの連続式蒸留機は、銅製で作られていました。
銅以外の例外スチル
スチルには銅が必要不可欠ですが、銅外の材質を使用したスチルもあります。
最近話題なのが日本の「三郎丸蒸留所」のZEMONという鋳物スチルです。
他にも焼酎などで用いられるステンレスのポットスチルやかなり特殊なところだとラムの蒸留器で木製のポットスチルなんかもあります。
鋳物スチル 三郎丸蒸留所
鋳物製造で有名な富山県のウイスキー蒸留所『三郎丸蒸留所』。
この蒸留所のポットスチルは、世界初となる銅と錫を混ぜた銅合金の「鋳物スチル」です。
鋳物は、砂などで作った型に溶かした金属を流し込んで作ります。
鋳物のメリットは、型があれば再現しやすいことと鍛造に比べて分厚くなるので丈夫なことです。
上の2つに加えて鋳造スチルの場合、細かい凹凸ができることにより銅の触媒効果が高くなることも利点となっています。
- 型があればいくらでも再現できる
- 鍛造に比べて分厚くなるため、丈夫で寿命が長い
- 細かい凹凸ができるため、銅の触媒効果が高まる
フェスでこの原酒を飲みましたが、ニューポットにしてオフフレーバーが少なく飲みやすかったです。
最近、飛騨高山蒸留所が鋳造スチル「ZEMON」を導入したことで話題となりました。
今後、ジャパニーズウイスキーの特徴となるスチルとなったら面白いかもしれません。
ステンレススチル(減圧蒸留器)
現在、常圧蒸留と減圧蒸留の二つの蒸留方法があります。
常圧蒸留はウイスキーと同じく圧力を加えない蒸留方法です。
するとアルコールは通常の78.3℃で蒸発しますが、圧力を下げることでアルコールの沸点を下げることができます。
圧力の原理を利用した蒸留方法が、減圧蒸留です。
調理でいう「圧力なべ」に反対ですね。圧力なべが加圧することで沸点をあげて、高い温度で沸騰させずに短時間で煮込んでいます。
低い温度(40~50℃)で蒸留するので、高沸点成分が蒸留されにくく、口当たりがまろやかな味わいになります。
焼酎やウォッカなどホワイトスピリッツに革命をもたらした蒸留方法で、魔王、富乃宝山、いいちこなどが減圧蒸留です。
減圧蒸留は必ずステンレスのスチルとなっていて、銅製のスチルで減圧蒸留を行うことができません。
その理由は、銅ではやわらかく、加圧に耐えられないからです。
圧によって変形してしまうため、銅のスチルで減圧蒸留はできません。
ちなみに富士御殿場蒸留所には、ステンレス減圧蒸留器があり、モルトウイスキーを減圧蒸留で作ったことがあるそうです。
ところが、銅のポットスチルに比べてオフフレーバーの強い原酒となってしまったと蒸留所のブレンダーの方から聞きました。
モルトウイスキーには、銅の触媒効果が必要だそうです。
モルトウイスキーが減圧蒸留で作られることはないですが、最近グレーンウイスキーの連続式蒸留機は、減圧蒸留でおこなうところが多いです。
連続式蒸留機の外壁はステンレス製で、各段に銅の網を挟んでいたり内側が銅のコーティングされていたりすることで、銅の効果を得ています。
木製スチル ガイアナ、ダイアモンド(デメララ)蒸留所
ウイスキーの蒸留所ではありませんが、ラムの名酒「エルドラド」は、木製のスチルを使っています。
木製の桶に金属製のヘッド、ネックなどがついた蒸留機で、
- 単式蒸留の木製スチル
- 二連式木製スチル
- 木製のコフィ式スチル
の3タイプがあります。
エルドラドの独特のコクや香り、ヘビーさは、このスチルからが生まれているのかもしれないですね。
まとめ
なぜポットスチルは銅製なのか。
今回の記事では、3つの観点から解説させて頂きました。
銅には、蒸気内のオフフレーバーの元となる硫黄化合物を除去できる性質があります。
その上で、金属の中で高い熱伝導率があり、加工もしやすいことが特徴です。
銅製のポットスチルがモルトウイスキーの味わいを支えていて、スコットランドでは銅以外のポットスチルが認められないほどです。
ただ最近、日本の三郎丸蒸留所が銅合金のスチルを作り話題となりました。
まだ日本には銅製のスチルの決まりはないので、銅合金のスチルで作られたウイスキーが国内外でどう評価されるか楽しみですね。
それではよいウイスキーライフを
また次回もよろしくお願いします。
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